= 先駆者は語る =
リチウムイオン電池保護ICは不滅か

リチウムイオン電池保護ICは不滅か

「電池の中にICを入れる?」

とある電池メーカーからICの開発検討依頼が舞い込んできた。

1991年のことである。当時は二次電池といってもニカド電池が主流の頃であり、ようやくニッケル水素電池が出始めたばかり、時を同じくして、リチウムイオン電池も市場に投入されて間もない時期であった。 そのため、まだ電池パックという概念が一般的でなく、電池の中にICを入れると言われてもイメージが湧かなかった。

あれから30年近くの年月が経過し、今や二次電池の代表格となったリチウムイオン電池には、保護回路及び保護ICが使われることが常識となっている。

リチウムイオン電池を世に広く知らしめた最初のアプリケーションはポータブルビデオカメラであったが、1990年代半ばの携帯電話の普及により、リチウムイオン電池市場は急成長を遂げた。 それに伴って、保護ICの需要も急激な伸びを示し、同時に機能・性能も大きく進歩している。

我々が初めて量産した保護ICの過充電検出電圧精度は±50mVだった。 当時、一般的なリセットICの精度は±2.5%であったので、例えば、過充電検出電圧4.3Vの場合、±2.5%だと精度は±107.5mVとなる。±50mVはそれなりの高精度と言えた。

しかし、現在の保護ICでは、標準的な精度は±20mV、高精度品ともなると±10mVの精度を保証している。

またパッケージサイズの観点での進歩も著しい。

初期のパッケージはSOP-8(5.2×6.2×1.5mm)であったが、現在の我々の小型パッケージはWLCSP、1.1×0.83×0.4mmのサイズとなっている。 面積比でいうと2.8%、高さでは約1/4の小型・薄型化である。

★★

このように進歩している保護ICだが、保護ICというものは、万が一の時のための安全機能部品であり、普段は何も働かないICである。 最後まで全く動作せずに生涯を終える可能性もある。リチウムイオン電池が出た当初は、セットメーカーからすると保護ICは余計な部品であり、保護回路は余計な回路であるという認識が強かった。

保護ICを含む保護回路が搭載された電池パックが世の中に出た時には、我々を含む多くのリチウムイオン電池関連の開発者は、保護ICは未来永劫続く製品ではないな、と思っていた。 また、ある時期には"保護回路レス" を何とか実現しようという動きもあった。

しかし、2006年に起きたノートPCの発火事故は大きな社会問題となり、これ以降、リチウムイオン電池はPSE対象に指定されることとなった。 規制以降は、"保護回路レス"といった声を聞くことはなくなり、リチウムイオン電池用保護ICという製品分野は確固たる地位を得ることとなったのである。

★★★

昨今では、全固体電池の開発が盛んに行われており、次世代二次電池の最有力候補として大きな期待が寄せられている。 安全性が高く、高エネルギー密度であり、安定動作温度範囲が広いということで、自動車や医療分野での用途に期待が大きい。

しかし、多くの有識者が発言されているように、全固体電池であっても保護回路はなくならないであろう。 電解質が固体になったとしても、デンドライトは発生するため、過充電や過放電は避けなければならないからである。

我々日清紡マイクロデバイスの保護ICの生産・供給もなくなることはないと考える。今後も、より進歩・進化した保護ICを提案し続けていく我々の使命に変わりはない。

2019年2月28日公開

執筆者プロフィール

Author

藤原 明彦 (ふじわら・あきひこ)

日清紡マイクロデバイス株式会社

リチウムイオン二次電池の黎明期ともいえる1990年代から、リチウムイオン電池保護ICの企画・設計に従事し、業界内でも名が知られる存在。 現在は”電池保護ICのスペシャリスト”として、マーケティング、企画に従事し、最新の電池の動向や電池保護ICの在り方に対して、常にワールドワイドにアンテナを張り、日清紡マイクロデバイスの電池保護ICの進むべき道をリードする。