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第3回 リチウムイオン電池のアプリ推移 ~アプリの広がりとお客様の移り変わり~

リチウムイオン電池保護IC 連載コラム 第3回

前回は保護ICの性能やパッケージについて、市場のニーズや技術の進歩に伴ってどのように発展していったかをお話ししましたが、今回はその市場に目を移し、リチウムイオン電池が使われるアプリの広がりと、我々の保護ICを採用していただく対象となるお客様がどのように移っていったかをお話ししたいと思います。

世界で初めて"リチウムイオン電池"と呼ばれる電池を採用したアプリは1992年に発売されたポータブルビデオカメラですが、少し遅れてハンディターミナルにも使われだしました。また当時大きな成長が期待されていた携帯電話やノートPCにも採用され始めたのですが、リチウムイオン電池が世に出る2年ほど前に、従来の代表的な小型二次電池であったニカド電池に変わる新型電池として高容量で環境に優しいニッケル水素電池が実用化されており、携帯電話やノートPCなどにも採用されていました。ほぼ同時期に2種類の新型電池が出現したことにより、モデルによってニッケル水素電池とリチウムイオン電池が混在するような時期がしばらくありました。

電池タイプ 公称電圧 主な特徴 用途
ニカド電池※1 1.2 V
  • 大電流の放電が可能
  • 自己放電が大きい
  • 継ぎ足し充電でメモリ効果※2が大きい
  • 玩具
  • 電動工具
  • 乾電池の代替
など
ニッケル水素電池 1.2 V
  • 自己放電が少なく、メモリ効果※2も少ない
  • 爆発の危険性が少ない。
  • 過放電に弱い。
  • 玩具
  • デジタルカメラ
  • 乾電池の代替
など
リチウムイオン電池 3.2 V
~ 3.8 V
  • エネルギー密度が高いため、小さく軽くできる。
  • 高電圧で急速充電が可能
  • メモリ効果※2が無く、自己放電も少ない。
  • 使い方によっては、破裂、発火、爆発など危険な状態になるため、安全のため保護回路が必要。
  • 携帯機器
  • 電動工具
  • 電気自動車
など
  • ※1 ニッケル・カドミウム電池
  • ※2 電池容量が残った状態のまま、追加で充電すると徐々に充電容量が減ってしまう現象

ニッケル水素電池とリチウムイオン電池では充電制御方式が異なるため (一般的にはニッケル水素電池の-ΔV方式やdT/dt方式に対して、リチウムイオン電池はCC・CV方式※3)、あるメーカの携帯電話ではどちらの電池であっても充電できるような充電システムが使われるケースもあり、そのようなシステムに対応した仕様の保護ICが求められる場合もありました。

※3 充電方式の違い

  • -ΔV方式

    -ΔV方式:満充電に近くなると電池電圧が
    下がるのを検出して充電をOFF

  • dT/dt方式

    dT/dt方式:満充電で電池温度が
    上昇するのを検出して充電をOFF

  • CC/CV方式

    CC/CV方式:満充電まで定電流充電、
    満充電近くなると定電圧充電に切り替え

また初期の携帯電話はシステムの入力電圧としてはリチウムイオン電池1本の電圧では不足していたため、リチウムイオン電池を2個直列で使用していました。しかし携帯電話に対する非常に強大な小型軽量化のニーズによって、携帯電話本体の電源システムの改良が行われ、ほどなく全ての携帯電話は電池1直で使われるようになりました。
携帯電話、ノートPC以外にはデジタルカメラやゲーム機器などにもリチウムイオン電池の採用が広がっていき、携帯電話はスマートフォンやタブレットに移り変わりながらIT機器を中心にリチウムイオン電池は急激な成長を遂げることとなりました。

このようにIT機器から採用が広がっていったリチウムイオン電池ですが、やがてIT以外のアプリにも広がりを見せていきます。特に動力系の機器への展開に広がりを見せることになります。電動アシスト自転車、電動バイク、搬送ロボットのような移動体や、電動工具、掃除機 (スティックタイプ、ロボットタイプ)、電動歯ブラシ、シェーバーのような家電、さらに電子タバコや補聴器に至るまで、様々なアプリにおいてリチウムイオン電池が採用されることになりました。また注目すべきは、今後のリチウムイオン電池の市場拡大の最大アプリとなっている自動車です。自動車も初めはニッケル水素電池が使われましたが、着実にリチウムイオン電池の採用が増えてきています。特に米国のT社が携帯機器に使われる18650サイズのリチウムイオン電池を7000個以上使ってEVに搭載したのは画期的でした。乾電池サイズのバッテリで自動車を動かすといったことは、想像ができませんでした。

  • 敷き詰めのイメージ

    T社の18650サイズの電池を約7000本以上使用 (敷き詰めのイメージ)

このようにリチウムイオン電池を採用するアプリが多種多彩になっていくに従って、我々ICメーカにとってのお客様も次第に変化していきました。リチウムイオン電池は発売当初から過充電や短絡などによって発熱、発火の危険性が言われていましたので、たとえBtoBであっても電池セル単体では決して販売されず、電池メーカが保護回路を組み込んだ電池パックという形でのみ流通していました。従って保護回路の設計も電池メーカが行っていたため、我々ICメーカは電池メーカへ保護ICの販売を行っていました。しかしながら電池セルの流通形態は徐々に変わっていきます。当時からPCの組み立て工場であった台湾において、電池パックの開発、組み立てを行うメーカが出始めました。電池セルの開発も日本のみならず、中国、韓国でも生産され始め、ベアセルと言われるいわゆる電池セル単体が入手しやすくなってきたため、保護回路とセルを組み上げて電池パックを生産するメーカが出てきたのです。やがて韓国、中国にも電池パックを専門で開発するメーカが増え始め、次第に保護回路のみを開発するモジュールメーカも出現してきました。そして電池パックはセル開発メーカ、保護回路開発メーカ、電池パック組み立てメーカ、といったように分業化されるようになったのです。このような流れに伴ってICメーカは電池セルメーカへの販売から、保護回路開発メーカへ販売するようになっていきました。さらに開発の流れは進化し、やがてアプリ開発メーカが電池パックの開発部門を持つようになり、現在では基本回路はアプリ開発メーカがデザインし、中国や台湾で組み立て生産を行う形式が主流になっています。

我々ICメーカにとっては電池セルメーカ ⇒ 電池パックメーカ ⇒ 保護回路モジュールメーカ ⇒ アプリ開発メーカへとコンタクト先が移り変わっていきました。
初めて世に出た時は18650サイズの円筒型タイプであったリチウムイオン電池は、角形タイプからパウチタイプ へと進化していきましたが、パウチタイプの出現によって大きさ・形を自由に作り込むことができるようになり、アプリの幅が飛躍的に広がりました。

  • 円筒型タイプ

    円筒型タイプ

  • 角型タイプ

    角型タイプ

  • パウチタイプ

    パウチタイプ

★★

現在では電池駆動のシステムを考える際には、まずリチウムイオン電池が候補に挙がってくるのではないでしょうか。今後益々リチウムイオン電池搭載機器は増えていくことになると思いますが、一方でポストリチウムイオン電池はどうなのか、といった興味を持たれている方は多いかと思います。このポストリチウムイオン電池についての話はまた別の機会にお話しできればと思っています。

第4回につづく)

2022年5月12日公開

執筆者プロフィール

Author

藤原 明彦 (ふじわら・あきひこ)

日清紡マイクロデバイス株式会社

リチウムイオン二次電池の黎明期ともいえる1990年代から、リチウムイオン電池保護ICの企画・設計に従事し、業界内でも名が知られる存在。 現在は”電池保護ICのスペシャリスト”として、マーケティング、企画に従事し、最新の電池の動向や電池保護ICの在り方に対して、常にワールドワイドにアンテナを張り、日清紡マイクロデバイスの電池保護ICの進むべき道をリードする。