世界初※、新日本無線、高電流増幅率・低オン抵抗
シリコンSJ-BJTパワーデバイスを開発
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2020/8 新日本無線、山梨大学調べ
新日本無線株式会社(本社:東京都中央区 代表取締役社長:森田 謙一)は、山梨大学 大学院総合研究部の矢野浩司教授(以下、山梨大学)、他と共同で、コレクタ領域をスーパージャンクション(SJ)構造※1とするシリコンバイポーラトランジスタ(以下SJ-BJT)の開発に成功しました。本技術により、電流開閉器の更なる小型化、低損失化が期待でき、将来の省エネ社会および低炭素化社会の実現に貢献します。
本成果は、パワー半導体デバイスの国際シンポジウムISPSD2020※2(主催:IEEEなど、公式サイト:https://www.ispsd2020.com/)のプロシーディングで発表いたしました(Early publication 2020/8/19)。
尚、ISPSD2020は、2020年9月13日~18日の日程でvirtual conferenceの形式で開催される予定です。
開発の背景
パワー半導体デバイスを用いた電流開閉装置(ソリッドステートリレー、以下SSR※3)は、家電製品、産業機器など広範囲に活用されています。今後、SSRの小型・省エネ化を推進するためにはパワー半導体の低損失化、特にオン状態での抵抗(以下オン抵抗)を低減することが必須となります。現在、SSRに主として使用されているサイリスタ、トライアック、MOS電界効果型トランジスタ(以下MOSFET※4)などのパワー半導体デバイスは近年性能の限界に近づきつつあり、新しい概念の低損失パワー半導体デバイスの開発が必要とされていました。
今回の成果
従来のスーパージャンクションMOSFET (以下、SJ-MOSFET)に用いられているスーパージャンクション技術を応用することで、世界で初めてSJ-BJTを作製(図1)し、高耐圧を保持しつつ、低オン抵抗と電流増幅率向上を実現しました。



今回開発したSJ-BJTの断面構造を図2に示します。スーパージャンクション技術は本図に示されるようにn型半導体領域とp型半導体領域を交互に周期的に配置した構造であり、パワー半導体の高い耐圧と低いオン抵抗を両立することが可能な構造です。本技術はこれまで主としてSJ-MOSFETに用いられており、それによりSJ-MOSFETのオン抵抗の低減が実現されました。今回、この技術をシリコンバイポーラトランジスタに適用し、スーパージャンクション構造とホール※5の注入効果を組み合わせることで、高耐圧であると同時に、低オン抵抗、高電流増幅率動作を実現しました。
SJ-BJTの動作において、従来のスーパージャンクション構造の動作だけでなく、図3に示すように、オン状態でベース電極からスーパージャンクションのp型領域を介してスーパージャンクションのn型領域へホールが効率的に注入される(図の赤線)ことが特徴です。この効果により電子電流(図の青線)が促進される伝導率変調現象※6が起こり、オン抵抗を低減できるとともに電流増幅率を増加することが可能となります。また従来のIGBT※7、サイリスタ、トライアックは、コレクタ側(もしくはアノード側)のp型領域よりホールを注入する構造であるため、素子をオンさせるのに、少なくとも0.7V以上のオン電圧が必要でしたが、SJ-BJTはベース電極よりホールを注入するために、低コレクタ電圧から導通し、原理的にオン抵抗を低くすることが可能です。
特徴
表1:今回開発したシリコンSJ-BJTの室温での代表的な特性
項目 | 記号 | 数値 | 条件 |
---|---|---|---|
コレクタ・エミッタ間降伏電圧 | VCES | 650 V (min.) | ベース・エミッタ間短絡 |
エミッタ接地電流増幅率 | hFE | 200 |
|
特性オン抵抗※8 | Ron,sp | 2.2 mΩcm2 | hFE = 7.0 |
4.1 mΩcm2 | hFE = 11.0 |
今後の展開
家電、産業機器などのSSRへの応用を目指して開発を進めます。今回の動作検証結果は、シンポジウムのポスターセッションにおいて、山梨大学と共同で詳細報告する予定です。
用語説明
- ※1
周期的にp型カラムとn型カラムが配置された構造。パワーデバイスの耐圧を保持し、ドリフト抵抗を低減することができる
- ※2
The 32nd International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs
- ※3
機械的なリレーのような可動接点がなく、半導体などの電子部品で構成されたリレー
- ※4
Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor
- ※5
電子とは反対の正の極性を持ち、電子と同様に半導体中で電流の流れに寄与するキャリア(担体)
- ※6
高抵抗のドリフト層にキャリアが注入されて、抵抗値が低下すること
- ※7
Insulated Gate Bipolar Transistor 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ
- ※8
1cm2あたりに換算したオン抵抗
論文情報
題目:First Demonstration of Si Superjunction BJT with Ultra-High Current Gain and Low ON-resistance
DOI:10.1109/ISPSD46842.2020.9170099
企業情報
- 会社名:新日本無線株式会社
- 所在地:東京都中央区日本橋横山町3番10号
- URL:https://www.nisshinbo-microdevices.co.jp/
- 日清紡グループ